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京都地方裁判所 平成元年(行ウ)11号 判決 1992年12月21日

京都市西京区樫原中垣外七番地四

原告

田中敏

右訴訟代理人弁護士

稲村五男

浅野則明

京都市西京区西院上花田町一〇番地一

被告

右京税務署長 團武夫

右指定代理人

山本恵三

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告(請求の趣旨)

1  被告が原告に対し昭和六三年三月二日付けでそれぞれした、原告の昭和五九年分の所得税の総所得金額を五二二万六、二二五円、同六〇年分の所得税の総所得金額を四九九万〇、九九一円、同六一年分の所得税の総所得金額を六三七万三、四五六円とする各更正処分及び右各年分の過少申告加算税の賦課決定処分(以下、以上の各処分を本件各処分という)のうち、総所得金額につき昭和五九年分は三三七万五、〇〇〇円、同六〇年分は三六〇万八、〇〇〇円、同六一年分は三八〇万三、〇〇〇円を超える分をいずれも取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

二  被告

主文同旨の判決。

第二当事者の主張

一  原告(請求原因)

1  原告は、理容業を営む者で、その昭和五九年分ないし同六一年分の所得税の確定申告、更正、異議申立、異議決定、審査請求、裁決の経緯は別表甲1のとおりである。

2  本件各処分は、以下の理由により違法である。

(一) 被告は、原告に対する税務調査において、事前通知や調査理由の個別具体的開示をせず、第三者の立会いを認めずに質問検査を行ない、本件各処分を行なった。

(二) 本件各処分のうち、原告の各申告総所得金額を超える部分は、原告の所得を過大に認定したものである。

よって、原告は被告に対し、本件各処分のうち別表甲1の各年分の確定申告欄記載の額を超える部分の取消を求める。

二  被告(認否、主張)

1  請求原因に対する認否

(一) 請求原因1の各事実を認める。

(二) 同2(一)、(二)をいずれも争う。

2  主張

(一) 事前通知、調査理由の開示、第三者の立会いについて

税務調査において事前に通知すること、調査理由を個別具体的に開示すること、第三者の立会いを認めることは、質問検査を行なうための法律上の要件ではない。

したがって、本件各処分は、税務調査において事前通知をせず、調査理由の個別具体的開示をせず、第三者の立会いを認めなかったとしても、違法とならない。

(二) 推計課税の必要性について

被告は、本件係争各年分についての原告の申告にかかる所得金額が適正なものかどうかを確認するため、部下職員を原告の所得税調査にあたらせた。

イ 右職員は、昭和六二年八月一日から同六三年二月一日までの間に、数回にわたり、原告方に臨場した。しかし、原告は、以下のように、終始調査に協力しなかった。

(イ) 右職員は、昭和六二年八月一日に原告方に臨場した。その際、原告は、今日は多忙であるので後に連絡する旨述べた。

(ロ) その後、原告との間の電話連絡を経て、右職員は、同月二四日に原告方に臨場した。その際、原告は、調査に関係のない第三者七名を同席させていた。右職員は、原告に対し、第三者を退席させた上で帳簿書類等を提示し、調査に応じるよう求めたが、原告はこれに応じなかった。また、調査理由を質問された右職員が、「申告した所得金額が適正なものかどうかの確認である。」旨答えたのに対し、「そんな理由では納得できない。」旨申し立て、調査に応じようとしなかった。

(ハ) 右職員は、同月二九日から同年一〇月五日までの間数回にわたり原告方に臨場したが、原告は、第三者の立会いがなければ調査に応じない、という姿勢を示し、帳簿書類等の提示要請に応じなかった。

(ニ) その後、右職員は、原告の取引先等に対する調査も実施し、原告の本件係争各年分の所得金額を概算した上、同年一〇月一九日、一一月三〇日、昭和六三年二月一日に原告方に臨場した。しかし、原告は、いずれの場合も第三者を同席させ、右職員による立会排除要請に応じず、調査に協力しなかった。なお、昭和六二年一一月四日にも臨場して修正申告を慫慂したが、原告はこれに応じない。

ロ 昭和六三年二月三日、原告から、右職員に対して、同月八日に右京税務署に来署する旨電話連絡があり、右職員は、来署の際に申告の基礎となった帳簿書類等を持参するよう要請した。しかし原告は、同月八日及び一五日に来署したものの、帳簿書類等を持参せず、修正申告にも応じなかった。

以上の経緯により、被告はやむを得ず、推計の方法により算出した金額に基づき本件各処分を行なったものであり、推計の必要性がある。

(三) 総所得金額について

(1) 推計の合理性

被告が原告の本件係争各年分の総所得金額(事業所得の金額)の算定に用いた同業者の選定経緯及びその推計は、次のとおり合理的である。

イ 大阪国税局長は、原告の事業所の所在地を所轄する被告に対し、本件係争各年分を通じて次の<1>ないし<10>の各条件に該当するすべての者を抽出するよう通達指示した。被告らが右抽出基準にしたがって抽出した同業者は、八名であり、その売上げ金額、売上原価等、売上原価率、算出所得金額、算出所得率は別表乙2ないし4のとおりである。

<1> 青色申告書により所得税の申告書を提出していること。

<2> 理容業を営んでいること。

<3> <2>以外の業種目を兼業していないこと。

<4> 年間を通じて事業を継続して営んでいること。

<5> 事業所が、右京税務署管内にあること。

<6> 売上原価等が三〇万円以上、一三〇万円未満であること。

右売上原価等の範囲は、被告が把握し得た原告の売上原価(仕入金額)を基準に、上限を昭和六一年分の約一五〇パーセント、下限を同六〇年分の約五〇パーセントとしたものである。

<7> 理容椅子を二台または三台有していること。

<8> 理容師の資格を有する者が二名以下(納税者本人を含む)であること。

<9> 事業従業員数が、納税者本人を含め、二人を超え四人以下であること。

<10> 対象年分の所得税について、不服申立または訴訟が係属中でないこと。

ロ 右抽出基準によって抽出された同業者は、原告と、業種、業態、事業所の所在地及び事業規模等の類似性を有し、しかも、その申告の正確性を有する青色申告者である。これに基づき算出された数値は正確である。

そして、同業者の抽出は、大阪国税局長の発した通達に基づき、右抽出基準に該当する者の全てを抽出したものである。その抽出にあたって恣意の介在する余地がない。

したがって、右により選定された同業者の売上原価率、算出所得率は、正確性と不偏性とが担保されている。被告がこれらを用いて原告の本件係争各年分の事業所得を推計したことは合理的である。

(2) 総所得金額の計算

原告の本件係争各年分の総所得金額(事業所得金額)の算定方法は、以下のとおりである。

イ 売上金額

原告の本件係争各年分の売上金額は、別表乙1の<1>売上金額欄各記載のとおりである。これらは、後記ロの売上原価を別表乙2ないし4記載の同業者の当該各年分の売上原価率(売上原価等の売上金額に対する割合)の平均値(以下、同業者原価率という。但し、別表乙1では平均売上原価率と記載)で除して算出した。

ロ 売上原価

原告の本件係争各年分の売上原価は、別表乙1の<2>売上原価の額欄各記載のとおりであり、いずれも、「安藤商店」からの各年分の仕入金額を売上原価の額とした。

但し、昭和五九年分については、安藤商店との取引額二七二万二、四八五円(取引金額二七二万三、八八五円から、値引額一、四〇〇円を控除した金額)のうち、別表乙7記載の理容椅子等の購入代金一八九万五、〇〇〇円を控除した金額である。

ハ 算出所得金額

原告の本件係争各年分の算出所得金額(売上金額から売上原価の額及び一般経費の額を差し引いた金額)は、別表乙1の<5>算出所得金額欄各記載のとおりである。これらは、前記イの各売上金額に、別表乙2ないし4記載の同業者の当該各年分の算出所得率(算出所得金額の売上げ金額に対する割合)の平均値(以下、同業者算出所得率という。但し、別表乙1では平均算出所得率と記載)を乗じて算定した。

ニ 特別経費の額

(イ) 給料賃金

原告の本件係争各年分の給料賃金の金額は、別表乙1の<6>給料賃金欄各記載のとおりであり、いずれも原告の実弟田中久継に対するものである。

(ロ) 建物減価償却費

原告の本件係争各年分の建物減価償却費の金額は、別表乙1の<7>建物減価償却費欄各記載のとおりである。これらは、原告が昭和五九年五月に一、二三四万八、〇〇〇円で取得した原告肩書地の店舗兼住居のうち、事業用に供している部分の減価償却費の額であり、その算式は、別表乙5記載のとおりである。

なお、原告は、本件係争各年分を通じ、右建物(三階建、総床面積八六・九一平方メートル)のうち一階部分(床面積二八・九七平方メートル)を事業用として使用していたので、事業専用割合を三分の一として計算した。

(ハ) 利子割引料

原告の本件係争各年分の利子割引料は、別表乙1の<8>利子割引料欄各記載のとおりである。その内訳は、別表乙6記載のとおり、いずれも京都中央信用金庫樫原支店に対して支払った借入金利息の金額である。

なお、昭和五九年三月一日付け借入金二、三〇〇万円は、原告が昭和五九年五月に取得した訴状肩書地の土地及び前記(ロ)の建物の取得資金の一部として借入れたものである。したがって、右借入金にかかる各年分の支払利息については、前記(ロ)のとおり右土地及び建物の事業専用割合は三分の一と認められるから、支払総額の三分の一を特別経費とした。

(ニ) 地代家賃

原告の本件係争各年分の地代家賃の金額は、別表乙1の<9>地代家賃欄各記載のとおりである。これは、訴外近藤正俊に対して支払った旧事業所(京都市右京区梅津高畝町三九番地)の家賃六万円及びガレージ代二万八、〇〇〇円の合計額である。

ホ 事業専従者控除額

原告の本件係争各年分の事業専従者控除額は、原告の妻田中悦子にかかる控除額であり、各年分とも四五万円である。

ヘ 総所得金額

原告の本件係争各年分の総所得金額(事業所得の金額)は、右ハの各算出所得金額から、ニの各特別経費の額及びホの各事業専従者控除額を控除した金額であり、別表乙1の<12>総所得金額欄各記載のとおりとなる。

したがって、被告が右総所得金額の範囲内でなした本件各処分は、いずれも適法である。

三  原告(認否、主張)

1  認否

(一) 被告の主張二2(一)を争う。

(二) 同二2(二)のうち、被告が、その部下職員を本件係争各年分の原告の所得税の調査にあたらせた事実は知らない。同(二)イ(ロ)、(ニ)のうち、調査に関係のない第三者とする点を争う。推計の必要性を争う。同(二)のその余の各事実を認める。

(三)(1) 同二2(三)(1)を争う。

(2)イ 同二2(三)(2)イの売上げ金額、ロの売上原価、ハの算出所得金額をいずれも争う。

ロ 同ニ(イ)の給料賃金を認める。

ハ 同ニ(ロ)のうち、原告が昭和五九年五月に一、二三四万八、〇〇〇円で原告肩書地の店舗兼住宅を取得したこと、右建物のうち一階部分を事業用として使用していたこと、右建物の総床面積、一階部分の床面積を認め、その余を争う。

ニ 同ニ(ハ)のうち、本件係争各年分の利子割引料の額、事業専用面積割合を争い、その余の事実を認める。

ホ 同二(二)の地代家賃を認める。

ヘ 同ホの事業専従者控除額を認める。

ト 同ヘの主張を争う。

2  主張(推計の合理性について)

(一) 理容業の仕入れは、通常、<1>鋏等の消耗品、<2>シャンプー等の理容材料、<3>店頭販売品の三種類に分けることができる。このうち、売上げと直接対応関係があるのは、理容材料に該当する部分である。したがって、売上げを推計するにあたっては、仕入れのうちから理容材料に該当する部分を抽出し、これに、同業者原価率(但し、仕入れを理容材料部分に限り、売上げをこれに対応した部分に限って、計算したもの)を乗じて算出すべきである。しかし、被告主張の推計は、原告の仕入れを前記三種類に分けず、同業者原価率についても、仕入れ、売上げとも三種類に分けずに計算した原価率を用いていたもので、合理性がない。

(二) 原告は、別表甲2記載のとおり、店頭販売商品の仕入れが多くの割合を占めており、業態が他の同業者と著しく異なっている。被告の推計は、このような原告の特徴を捨象しており、合理性がない。

四  被告(原告の主張に対する認否、反論)

1  認否

(一) 原告の主張三2(一)を争う。

(二) 同(二)を争う。原告の店頭販売商品の仕入れは、特に多かったということができない。

2  反論(推計の合理性について)

(一) 理容業における仕入商品の内容を消耗品類、理容材料、店頭販売商品に分類することは、現実問題として困難である。

(二) また、消耗品類、理容材料、店頭販売商品は、いずれも他の経費と比べて比較的売上げと密接な対応関係にあり、これらは一体となって売上げと対応関係にある。また、店頭販売商品の売上げは、多かれ少なかれ同業者においてもみられる。

(三) したがって、被告が、消耗品類、理容材料、店頭販売商品を一括して推計の基礎としたことには、合理性がある。

五  原告(認否)

被告の反論四2をいずれも争う。

第三証拠

証拠に関する事項は、本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  原告の請求原因一1の各事実は、当事者間に争いがない。

二  原告の請求原因一2(一)及び被告の主張二2(一)の事前通知、調査理由の個別具体的開示、第三者の立会について検討する。

税務職員による質問検査については、その範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、右必要と相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な程度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解すべきである。(最決昭和四八・七・一〇刑集二七巻七号一、二一一頁、最判昭和五八・七・一四訟務月報三〇巻一号一五一頁参照)。そして、本件において、税務調査に際し事前の通知や調査理由の個別具体的開示をせず、第三者の立会を容認しなかったことが、調査担当職員の裁量権の濫用であるとか、本件調査がその必要なしに、あるいは社会通念上相当でない方法で行なわれた違法があるとすべき事情は、本件全証拠によっても認められない。

以上によれば、原告の請求原因一2(一)の主張は理由がない。

三  被告の主張二2(二)の推計の必要性について検討する。

1(一)  証人西田健の証言、原告本人尋問の結果(但し、措信できない部分を除く)、弁論の全趣旨を総合すると、以下の各事実を認めることができる。

(1) 被告は、その部下職員である国税調査官西田健を、本件係争各年分の原告の所得税調査にあたらせた。

(2) 右職員は、前示被告の主張二2(二)の各事実及びその経過のとおり、昭和六二年八月一日から同六三年二月一日までの間に、前後七回以上にわたり、原告方に臨場した。しかし、原告が、右第三者の立会を要求し、帳簿書類を提出しなかったため、その総所得金額を実額で把握できなかった。

(二)  右の各事実によれば、本件において、原告の昭和五九年分ないし同六一年分の所得税について推計課税をする必要性があることが認められる。これに反する原告本人尋問の結果の一部は、前掲各証拠及び弁論の全趣旨に照らし遽かに措信できない。他に右認定を覆すに足る証拠がない。

四  推計の合理性について

1  証人的野珠輝の証言、成立に争いがない乙第一、第二号証、弁論の全趣旨を総合すれば、前示被告の主張二2(三)(1)イの各事実を認めることができ、他にこの認定を覆すに足る証拠がない。

右認定各事実によれば、右同業者の選定基準は、業種の同一性、事業場所の近接性、業態及び事業規模の類似性等を確保する基準として合理的なものであり、その抽出作業について被告あるいは大阪国税局長の恣意の介在する余地は認められない。しかも、右の調査の結果得られる数値は、青色申告書に基づいたものでその申告が確定しており信頼性が高く、抽出した同業者も八名であることから、各同業者の個別性を平均化するに足るものということができる。したがって、右各同業者の売上原価率、算出所得率の各平均値を基礎に算出された原告の本件係争各年分の事業所得の金額の推計は、特段の事情がない限り、合理性がある。

2  理容業の推計の特殊性について

(一)  原告は、その主張三2(一)において、理容業はその特殊性に照らし、仕入れを消耗品、理容材料、店頭販売商品の三種類に分類し、理容材料に該当する部分のみを基礎として推計すべきである。これをしない被告主張の本件推計には合理性がない旨主張する。

なるほど、理容業の場合には、右の仕入れの種類により、売上金額との対応関係に強弱が生ずることが考えられる。しかし、証人的野の証言、弁論の全趣旨によれば、次のように認められる。右三種類の仕入れは、一体となって、他の経費と比べれば、売上げ金額と比較的強い対応関係にある。また、理容業の仕入額を消耗品、理容材料、店頭販売商品別に明確に区分し、その実額を算出することは極めて困難である。同業者も多かれ少なかれ店頭販売商品を扱っている。これらの事実に照らすと、原告が他の同業者に比べてとくに店頭販売商品が多く業態が著しく異なる等特段の事情がない限り、理容業の仕入れを前記三種類に分類せずになした推計にも、合理性があるというべきである。

(二)  原告は、その反論三2(二)において、本件係争各年を通じて店頭販売商品の仕入れが多く、他の同業者と業態が著しく異なっている旨主張する。しかし、右主張に副う原告本人尋問の結果には、以下のとおり疑問がある。

(1) 原告が理容材料に分類して陳述するシャンプーの仕入れは、昭和五九年分は存在せず、同六〇年分は一八リットル入り三缶、同六一年分は一八リットル入り五缶、四・八リットル入り一缶と年度によって仕入れの変動が大きい。

(2) 原告は、一リットル入りのヘアトニックでも、個人が使うと一年もたない旨陳述する。これを前提として考えると、原告が理容材料に分類して陳述するヘアトニック(一リットル入り)の仕入れは、昭和五九年分が四本、同六〇年分が二本、同六一年分が六本といずれも異常に少ない。

(3) 原告が理容材料に分類して陳述するひげそり粉末の仕入れは、昭和六一年分が二缶であり、同五九年分、六〇年分は存在しない。

以上によれば、原告が理容材料に分類して陳述する仕入れには、理容業者として分量が極めて少ないものがあり、原告陳述分以外にも理容材料として使用されたものが存在していたものと推認できる。とすれば、原告主張の理容材料額が少額に過ぎ、これがより多額で、店頭販売額が相対的に少額になるものというほかない。したがって、原告の仕入れのうちに占める店頭販売商品の仕入れが他の同業者に比べて極めて多い旨の原告本人尋問の結果は遽かに借信し難い。他に、店頭販売商品の比率が、同業者に比し、著しく多い旨の原告の主張を認めるに足る的確な証拠がない。

五  推計の方法による総所得金額の算出について

1  売上金額

原告の本件係争各年分の売上金額は、後記2の各売上原価を、別表乙2ないし4記載の同業者原価率で除したものであり、被告の主張二2(三)(2)イにいう別表乙1の<1>売上金額欄各記載のとおりである。

2  売上原価

弁論の全趣旨により成立が認められる乙第三号証、弁論の全趣旨によれば、原告の本件係争各年分の売上原価の額は、被告の主張二2(三)(2)ロにいう別表乙1の<2>売上原価の額欄各記載のとおりであると認められる。

3  算出所得金額

原告の本件係争各年分の算出所得金額は、前記1の各売上金額に、別表乙2ないし4記載の当該各年分の同業者算出所得率を乗じて算定したものであり、被告の主張二2(三)(2)ハにいう別表乙1の<5>算出所得金額欄各記載のとおりである。

4  特別経費の額

(一)  給料賃金

被告の主張二2(三)(2)ニ(イ)の、原告の本件係争各年分の給料賃金の金額は、当事者間に争いがない(別表乙1の<6>給料賃金欄各記載のとおり)。

(二)  建物減価償却費

被告の主張二2(三)(2)ニ(ロ)のうち、原告が昭和五九年五月に一、二三四万八、〇〇〇円で原告肩書地の店舗兼住宅(総床面積八六・九一平方メートル)を取得したこと、右建物のうち一階部分(床面積二八・九七平方メートル)を事業用として使用していたことは、当事者間に争いがない。

右争いのない事実によれば、右建物についての減価償却費を算定するにあたり、事業専用割合を三分の一と認めるのが相当であり、原告の本件係争各年分の減価償却費の金額は、被告の主張二2(三)(2)ニ(ロ)にいう別表乙1の<7>建物減価償却費欄各記載のとおりであると認められる。

(三)  利子割引料

被告の主張二2(三)(2)ニ(ハ)のうち、別表乙6記載の二、三〇〇万円及び一一〇万円の各借入の事実、右のうち二、三〇〇万円の借入金が原告肩書地の土地及び前記(二)の建物の取得資金である事実は、いずれも当事者間に争いがない。右土地及び建物の事業専用割合は、前記(二)と同様、三分の一と認めるのが相当である。以上の各事実及び弁論の全趣旨によれば、原告の本件係争各年分の利子割引料は、被告の主張二2(三)(2)ニ(ハ)にいう別表乙1の<8>利子割引料欄各記載のとおりである。

(四)  地代家賃

被告の主張二2(三)(2)ニ(二)の、原告の本件係争各年分の地代家賃の金額は、当事者間に争いがない。

5  事業専従者控除額

被告の主張二2(三)(2)ホの、原告の本件係争各年分の事業専従者控除額は、当事者間に争いがない。

6  総所得金額

原告の本件係争各年分の所得税の総所得金額(事業所得金額)は、算出所得金額から特別経費の額及び事業専従者控除額を差し引いた額であり、被告の主張二2(三)(2)ヘにいう別表乙1の<12>の総所得金額欄記載のとおりとなる。

したがって、本件各処分は、右各総所得金額の範囲内でなされた適法な処分であって、これらに違法な点はなく、請求原因一2(二)は理由がない。

六  結論

以上のとおり、原告の本件各請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉川義春 裁判官 中村隆次 裁判官 佐藤洋幸)

別表 甲1

課税の経緯

<省略>

別表 甲2

<省略>

別表 乙1

原告の総粗得金額

<省略>

別表 乙2

同業者の売上原価率及び算出所得率(昭和59年分)

<省略>

別表 乙3

同業者の売上原価率及び算出所得率(昭和60年分)

<省略>

別表 乙4

同業者の売上原価率及び算出所得率(昭和61年分)

<省略>

別表 乙5

原告の建物減価償却費

<省略>

別表 乙6

原告の利子割引料

<省略>

別表 乙7

<省略>

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